生涯に数回は役に立つ雑学。蟻を食べるとなぜ酸っぱい味がするのか

子どもの頃はよく何でも口の中に入れたものだ。例えば桑の実だったりツツジの蜜だったり、そして蟻だったり……。前者と比べて蟻は生き物なので少々無理があったかもしれないが、実際、私は子どもの頃に蟻を食べた記憶がある。周りの友人らも口に運んでいた。

今では大の虫嫌いなので食べようなどと露ほども思わないのだが、子どもというのは好奇心が旺盛かつ、虫に対する「気持ち悪い」「汚い」「なんかかぶれそう」といった感情が薄いようなので、口に入れてしまうこともあるようだ。で、私も口に入れた。酸っぱかった。友人たちもしきりに「酸っぱ!酸っぱwwww」と意味不明的にはしゃいでいた。そう、蟻は酸っぱかったのだ。

しかし、なぜ、蟻は酸っぱい味がするのだろうか。今後、この知識が役立つシーンは生涯で5回あれば良いほうかもしれない。が、気になってしまったのだから仕方がない。蟻が酸っぱい理由を整理してみた。

スポンサーリンク

蟻が酸っぱいのは蟻酸を有しているから

早速答えに行き着いてしまったが、蟻が酸っぱい理由は蟻は蟻酸を含んでいるからだという。「そもそも蟻は甘い」と論じる向きもあるようだが、この主張に関しては、これから説明する予備知識ががない段階で扱うと混乱してしまうので、後述させていただきたい。まずは「蟻は酸っぱいものだ」という条件を前提に筋道を構成していきたい。

さて、蟻が酸っぱい理由は蟻酸だという。「ああ、そうでしたか。おやすみ~」で済ませても良いのだが、この蟻酸というものがどんなものか理解しなければ、なぜ蟻は酸っぱいのかという問に対する完全な答えとは言えない。では、蟻酸とは何者か。

蟻酸とは何か

蟻酸という成分を世界で初めて単離(簡単にいえば抽出)したのはイギリスの博物学者であるジョン・レイだという。ヤマアリ属(学名Formica。アカヤマアリ、エゾアカヤマアリ、クロヤマアリ、ヤマクロヤマアリなどの日本でも割とポピュラーな蟻の種類)を大量に集めて蒸留し、蟻酸の抽出に成功したようだ。そして、その成分をformic acid(ヤマアリ属の酸)と名付けた。

これで、そもそもどうやって発見されたのかということが分かった。次に蟻酸とはどんなものなのかということが知りたい。

蟻酸の示性式は「HCOOH」である。示性式とは、簡単に言えば「この物質とこの物質がくっついてまっせ~」というのを分かりやすくした式である。では、蟻酸はどの物質とどの物質が化合してできているものなのか。

まず「H」に注目。「水兵リーベ僕の船」でお馴染みのため、これなら覚えているという向きもあるだろう。「H」とは水素である。しからば、その後に続く「COOH」というのは何なのか。

結論を言ってしまえば、「COOH」とはカルボキシル基である。そしてこのカルボキシル基こそが酸味の元である。

例えば、「OH(水酸基)」をたくさん含む化合物は甘い(e.g.砂糖の主成分であるスクロースの化学式はC12H22O11)ように、化合物の中にも甘かったり、酸っぱかったり、味がするものがある。

では、「COOH」を含む化合物を挙げてみよう。代表例が、お酢の酸味の元である酢酸である。酢酸の示性式は「CH3COOH」である。「COOH」がどっしりと入っているだろう。他にも挙げてみる。例えば「C(OH)(CH2COOH)2COOH」。これは梅干しやレモンなどに含まれる酸味成分、お馴染み「クエン酸」である。というわけで「COOH」が含まれている化合物は酸っぱく、「HCOOH」である蟻酸も酸っぱい味がするというわけだ。そして、蟻酸を持っている蟻は食べると酸っぱい味がするという結論に至るわけである。

では、なぜ「そもそも蟻は甘い」という意見があるのか

最後に蟻酸というものをもう少しだけ説明しておきたい。実はこの蟻酸、持っている蟻と持っていない蟻が存在するのだ。

日本には10亜科280種以上の蟻が存在しているという。その中でも二大勢力と言っていいのが、ヤマアリ亜科とフタフシアリ亜科である。「ヤマアリ」という言葉に聞き覚えがないだろうか。あるはずだ。そう、先程書いたからだ。「ジョン・レイが最初に見つけて~」などと不要に見られる説明をした部分を思い出してもらいたい。蟻酸とはformic(ヤマアリ) acid(酸)のこと、つまりヤマアリが持っている酸のことである。従って、フタフシアリ亜科などの蟻は保有していないのだ。というわけで、ヤマアリ亜科は酸っぱくて、フタフシアリ亜科は酸っぱくないという結論が導き出される。

ヤマアリ亜科の蟻で代表的なものはクロオオアリである。こいつは住宅地や公園なんかにいる、大きくて黒々とした割とかっこいいやつだ。お尻にシマシマ模様があるのも特徴。こやつの仲間に腹部がちょいと赤みがかっている「ムネアカオオアリ」やクロオオアリより少し小さい「クロヤマアリ」というのもいる。特にクロヤマアリはクロオオアリと似ているので、このでっかい黒いやつの子どもバージョンかな?と思っていた人もいると思う。

対して、フタフシアリ亜科の代表的なものは、アシナガアリである。アシナガアリはクロオオアリよりも小さく、赤みがかった褐色をしているのが特徴だ。

というわけで、「なぜ、蟻は酸っぱい派と甘い派に分かれるのか」という問いに対しては、「その人が食べたのが、ヤマアリ亜科であれば酸っぱいと思っているし、フタフシアリ亜科であれば甘いと思っている」という結論に至ろう。もっと踏み込んで言えば、酸っぱい派の人はクロオオアリを食べた可能性が高く、割とチャレンジャー、甘い派の人はアシナガアリを食べた可能性が高く、比較的慎重派ということになろうか。

子どものころに蟻をいただいたことのある方は、ぜひとも思い出してほしい。酸っぱい派の方、その蟻は大きくて黒くなかったですか?

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする