なぜ、私たちは存在しないはずの生き物に、これほどまでに心を惹きつけられるのでしょうか。
天を衝く巨龍、森の奥に佇む聖獣、深淵に潜む異形の怪物――。
それらは、古代の人々が抱いた自然への畏怖、未知への好奇心、そして善と悪の概念そのものが形を成した、人類の「想像力の結晶」です。
この記事は、世界中の神話・伝説の海に散らばる、それら幻獣やモンスターたちの姿を記録し、一堂に集めた究極の図鑑です。
ギリシャ、北欧といった西洋神話から、日本、中国、インドが息づく東洋の伝説、さらには中東、エジプトの秘められた伝承まで。有名な幻獣はもちろん、あなたの知らないマニアックな存在までを網羅しました。
単なる解説ではありません。それぞれの幻獣が持つ「物語」と、その魂に触れることを目的としています。
この記事を読了した時、あなたのファンタジーの世界は、かつてないほど広大で、深淵なものになっているはずです。さあ、時空を超えた幻想生物たちの生態を巡る、大いなる旅を始めましょう。
第1章:西洋の幻想世界 – ヨーロッパの幻獣・モンスター
英雄叙事詩や壮大な神話が生まれたヨーロッパ。ここで語られる幻獣たちは、現代ファンタジーの原点とも言える存在です。
【ギリシャ・ローマ神話】
神々と英雄が織りなす物語には、数多くの恐ろしくも魅力的な怪物が登場します。
- グリフォン (Griffin)
【分類】幻獣 【地域】ギリシャ神話
鷲の上半身と翼、ライオンの下半身を持つ気高き幻獣。「知識」と「力」の象徴であり、神々の車を曳いたり、宝を守る番人として描かれます。その爪には、毒を癒やす力があると信じられていました。 - キマイラ (Chimera)
【分類】合成獣 【地域】ギリシャ神話
ライオンの頭、山羊の胴体、蛇の尾を持つ、異質なものの合成の代名詞。口からは炎を吐き、英雄ベレロポンによって退治されました。現代では、異なる遺伝子を持つ個体を指す生物学用語にもなっています。 - ヒュドラ (Hydra)
【分類】竜種 【地域】ギリシャ神話
9つの頭を持つ巨大な水蛇。1つの首を切り落としても、そこから2つの首が再生するという、絶望的な再生能力を誇ります。中央の首は不死であるとされ、英雄ヘラクレスを最も苦しめた怪物の一つです。 - ケンタウロス (Centaur)
【分類】亜人 【地域】ギリシャ神話
人間の上半身と馬の下半身が結合した半人半馬の種族。賢明で知的な者もいれば、野蛮で粗暴な者もいるとされ、人間と自然の二面性を象徴する存在です。 - ミノタウロス (Minotaur)
【分類】亜人 【地域】ギリシャ神話
牛の頭と人間の体を持つ怪物。クレタ島の迷宮(ラビュリントス)に幽閉され、生贄の若者を喰らっていました。人の業と、抗えぬ運命の悲劇を体現しています。 - ペガサス (Pegasus)
【分類】聖獣 【地域】ギリシャ神話
純白の翼を持ち、大空を駆ける神馬。英雄ペルセウスがメドゥーサを討伐した際に、その血から生まれたとされています。自由とインスピレーションの象徴です。 - ケルベロス (Cerberus)
【分類】魔獣 【地域】ギリシャ神話
3つの頭を持つ、冥界の番犬。死者が冥界から逃げ出さないように、そして生者が侵入しないように、その門を厳しく見張っています。 - スフィンクス (Sphinx)
【分類】幻獣 【地域】ギリシャ神話 / エジプト神話
人間の女性の顔と胸、ライオンの体、鷲の翼を持つ怪物。通りかかる者に謎をかけ、答えられない者を喰らうとされています。エジプトのスフィンクスは神聖な守護者ですが、ギリシャでは不吉な存在として描かれます。 - セイレーン (Siren)
【分類】亜人 【地域】ギリシャ神話
上半身が人間、下半身が鳥(後世では魚)の姿を持つ海の精。その美しい歌声で船乗りを惑わし、船を難破させてしまいます。抗いがたい誘惑の象徴です。 - ハーピー (Harpy)
【分類】亜人 【地域】ギリシャ神話
人間の女性の顔と、鳥の体を持つ醜い怪物。神々の罰の執行者として、食料を奪い去り、汚物をまき散らすなど、不浄と貪欲の象徴として描かれます。 - メドゥーサ (Medusa)
【分類】亜人 【地域】ギリシャ神話
ゴルゴン三姉妹の一人。髪の毛一本一本が生きた毒蛇であり、その瞳を直視した者を石に変えてしまう恐ろしい能力を持ちます。元は美しい巫女だったという悲劇的な物語も伝わっています。 - キュクロプス (Cyclops)
【分類】巨人 【地域】ギリシャ神話
額の中央に一つだけ目を持つ巨人族。鍛冶の神ヘパイストスに仕え、神々の武具を作ったとも、人を喰らう野蛮な怪物であったとも言われています。
【北欧神話】
氷と炎、神々と巨人が織りなす終末の物語には、宇宙を揺るがすほどの巨大なモンスターが登場します。
- フェンリル (Fenrir)
【分類】魔獣 【地域】北欧神話
神々すら喰らう、巨大な狼。そのあまりの凶暴さから神々によって拘束されますが、終末の日「ラグナロク」に全ての枷を食い破り、最高神オーディンを飲み込むと予言されています。 - ヨルムンガンド (Jormungandr)
【分類】竜種 【地域】北欧神話
人間が住む世界「ミズガルズ」を取り巻くほど巨大な毒蛇。「ミズガルズオルム(世界の蛇)」とも呼ばれます。ラグナロクでは、宿敵である雷神トールと相打ちになるとされています。 - スレイプニル (Sleipnir)
【分類】聖獣 【地域】北欧神話
8本足を持ち、海も空も駆けることができる、最高神オーディンの愛馬。神々の世界で最も速く、最も美しい馬であると言われています。 - ニーズヘッグ (Nidhogg)
【分類】竜種 【地域】北欧神話
世界樹ユグドラシルの根を齧り、世界を蝕む邪竜。死者の爪で作られた船「ナグルファル」を率いて、ラグナロクで神々に襲いかかるとされています。 - クラーケン (Kraken)
【分類】魔獣 【地域】北欧伝承
巨大な船すらも一飲みにする、伝説の超巨大なタコやイカの姿をした海の怪物。その巨体は、島と見間違えるほどであったと語られています。
【ケルト・イギリス神話/伝承】
魔法と妖精が息づく神秘の島々。ここには、美しくも恐ろしい、自然と一体化した存在が数多く伝わっています。
- ドラゴン (Dragon)
【分類】竜種 【地域】ヨーロッパ全域
西洋ファンタジーの象徴。硬い鱗、鋭い牙と爪、そして口から吐く炎で全てを焼き尽くす、最強のモンスター。悪の化身として描かれることもあれば、ウェールズの旗のように、国の象徴として描かれることもあります。 - ユニコーン (Unicorn)
【分類】聖獣 【地域】ヨーロッパ伝承
額に一本の螺旋状の角を持つ、純白の馬。極めて気高く、純潔の乙女にしか心を許さないとされています。その角には、あらゆる毒を浄化する力があると信じられていました。 - ワイバーン (Wyvern)
【分類】竜種 【地域】イギリス紋章学
2本の脚と、コウモリのような翼を持つ竜。ドラゴンとしばしば混同されますが、紋章学では前脚がなく、翼が腕の代わりになっているのが特徴です。 - ゴブリン (Goblin)
【分類】亜人 【地域】ヨーロッパ伝承
洞窟などに住む、醜く、悪意に満ちた小鬼。人間に対して悪戯を働いたり、時には人を襲って喰らうこともあります。ファンタジー作品では、最もポピュラーな雑魚モンスターとして登場します。 - ピクシー (Pixie)
【分類】妖精 【地域】イギリス伝承
悪戯好きで、人を道に迷わせる小さな妖精。緑の服を着て、尖った帽子をかぶっているとされています。ゴブリンほど悪質ではない、愛嬌のある存在です。 - バンシー (Banshee)
【分類】妖精/霊 【地域】アイルランド・スコットランド伝承
特定の家系の死を、悲痛な泣き声で予告するという女の妖精。その声を聞いた者は、近いうちに死が訪れるとされ、恐れられていました。 - レッドキャップ (Redcap)
【分類】妖精 【地域】スコットランド伝承
廃墟となった城に住む、極めて邪悪で残忍な妖精。旅人を殺し、その血で自分の帽子を赤く染めると言われています。帽子が乾くと死んでしまうため、常に殺戮を繰り返します。
【その他ヨーロッパ伝承】
錬金術やキリスト教の世界観から生まれた、ユニークな存在たち。
- ガーゴイル (Gargoyle)
【分類】魔獣/彫像 【地域】フランス
元々は、教会の屋根から雨水を排出するための「樋嘴(ひばし)」の彫刻。悪魔をかたどったその姿は、魔除けの意味を持つとされ、夜になると動き出すという伝説が生まれました。 - ゴーレム (Golem)
【分類】魔法生物 【地域】ユダヤ伝承
ユダヤ教の律法学者が、粘土から作り出したとされる人造人間。主人の命令に忠実に従いますが、制御を失うと暴走する危険な存在でもあります。 - ヴァンパイア (Vampire)
【分類】不死者 【地域】東欧伝承
人の生き血を啜り、永遠の命を生きる夜の怪物。ニンニクや十字架、太陽の光を弱点とし、その心臓に杭を打つことでしか滅ぼせないとされています。 - リヴァイアサン (Leviathan)
【分類】魔獣 【地域】旧約聖書
神が天地創造の5日目に創り出した、海の支配者たる巨大な怪物。その硬い鱗はどんな武器も通さず、終末の日に神によって滅ぼされるとされています。 - ベヒモス (Behemoth)
【分類】魔獣 【地域】旧約聖書
リヴァイアサンと対をなす、陸の支配者たる巨大な怪物。カバやサイを思わせる姿で描かれ、その力は神にしか制御できないとされています。 - サラマンダー (Salamander)
【分類】精霊 【地域】錬金術
火を司る四大精霊。炎の中に生まれ、炎を糧として生きるとされるトカゲの姿をした精霊です。 - ウンディーネ (Undine)
【分類】精霊 【地域】錬金術
水を司る四大精霊。美しい女性の姿をしており、人間の男性と恋に落ちるという物語が多く語られています。 - シルフ (Sylph)
【分類】精霊 【地域】錬金術
風を司る四大精霊。姿は見えず、風そのものとして存在するとされる、捉えどころのない精霊です。 - ノーム (Gnome)
【分類】精霊 【地域】錬金術
地を司る四大精霊。地の底で宝を守る、老人の姿をした小人として描かれます。
第2章:東洋の神秘 – アジアの幻獣・モンスター
自然信仰や独自の宗教観が育んだアジアの幻獣たちは、時に神の使いとして、時に荒ぶる神として、人々の生活と密接に関わってきました。
【日本】
八百万の神々が住まう国。その伝承には、多種多様な妖怪や神獣が登場します。
- 八岐大蛇 (Yamata no Orochi)
【分類】竜種/妖怪 【地域】日本神話
8つの頭と8本の尾を持ち、その巨体は谷を埋め尽くすほどであったという、日本を代表する大蛇の怪物。英雄スサノオノミコトによって退治されました。 - 九尾の狐 (Kyubi no Kitsune)
【分類】妖獣 【地域】日本/中国/インド
9本の尾を持つ、絶大な妖力を持った狐の妖怪。絶世の美女に化けて王を惑わし、国を傾かせるとされる、最も有名な悪役妖怪の一人です。 - 天狗 (Tengu)
【分類】妖怪 【地域】日本
山に住み、神通力を持つとされる妖怪。赤い顔で鼻が高い「大天狗」と、烏の嘴を持つ「烏天狗」がいます。時に人をさらい、時に修験者を導く、善悪二面性を持つ存在です。 - 河童 (Kappa)
【分類】妖怪 【地域】日本
川や沼に住む、子供のような姿の妖怪。頭の皿の水が乾くと力を失います。キュウリが好物で、人間に相撲を挑むことで知られています。 - 鬼 (Oni)
【分類】妖怪 【地域】日本
頭に角を生やし、虎柄のパンツを履いた、怪力無双の妖怪。節分の豆まきで追い払われる、日本の悪役の象徴です。 - 龍 (Ryu)
【分類】竜種/神獣 【地域】日本
西洋のドラゴンとは異なり、日本の龍は水を司る神聖な存在として崇められています。天候を操り、恵みの雨をもたらす一方で、時には洪水や嵐を引き起こす荒ぶる神でもあります。
【中国】
古代思想と広大な大地が生んだ中国の神獣たちは、皇帝や国家の吉兆を告げる、スケールの大きな存在です。
- 麒麟 (Kirin)
【分類】神獣 【地域】中国
優れた王が世を治める時に現れるとされる、慈悲の心を持つ神獣。鹿の体に牛の尾、馬の蹄を持ち、頭に一本の角があります。生きている草を踏むことすらしない、平和の象徴です。 - 鳳凰 (Fenghuang)
【分類】神鳥 【地域】中国
麒麟と同じく、徳の高い君主の治世に現れるとされる、伝説の鳥。五色の羽を持ち、その鳴き声は美しい音楽のようであったと言われています。 - 霊亀 (Linggui)
【分類】神獣 【地域】中国
世界の成り立ちを甲羅に刻み、未来を予知する力を持つとされる、神聖な亀。四神(青龍・白虎・朱雀・玄武)の玄武と同一視されることもあります。 - 応龍 (Yinglong)
【分類】竜種/神獣 【地域】中国
翼を持つ、最強格の龍。皇帝・黄帝に仕え、敵対する神々を打ち破ったとされています。龍が千年生きると応龍になるとも言われています。 - 白澤 (Bai Ze)
【分類】神獣 【地域】中国
人語を解し、森羅万象、特にこの世の全ての妖怪や悪霊について知っているという、知識の神獣。その姿を描いた絵は、魔除けになると信じられていました。 - 饕餮 (Taotie)
【分類】魔獣 【地域】中国
体を持たず、巨大な顔と口だけで表現される、貪欲の象徴たる怪物。あらゆるものを喰らい尽くすことから、青銅器などの装飾に、戒めの意味を込めて描かれました。
【インド】
ヒンドゥー教の神々が活躍する壮大な叙事詩には、神の乗り物や宿敵として、強力な幻獣が登場します。
- ガルーダ (Garuda)
【分類】神鳥 【地域】インド神話
黄金の体に人間の顔、鷲の嘴と翼を持つ、鳥の王。最高神ヴィシュヌを背に乗せて飛ぶ、神聖な乗り物(ヴァーハナ)です。蛇の神であるナーガ族とは、宿敵の関係にあります。 - ナーガ (Naga)
【分類】神獣 【地域】インド神話
人頭蛇身、あるいは巨大なコブラの姿で描かれる、蛇の神。天候を操り、地下の宝を守るとされています。仏教では、仏法を守護する存在としても登場します。
【ペルシャ・中東】
砂漠とオアシス、古代文明が交差する地には、異国情緒あふれる幻獣が伝わっています。
- シームルグ (Simurgh)
【分類】神鳥 【地域】ペルシャ神話
犬の頭、ライオンの爪、孔雀の羽を持つとされる、巨大な神鳥。知恵と知識の象徴であり、英雄を助け、導く存在として物語に登場します。 - ロック鳥 (Roc)
【分類】幻鳥 【地域】アラビア伝承
『アラビアン・ナイト』に登場する、象すらも雛の餌として運んでしまうという、伝説の巨大な鳥。その羽は、家ほどもあったと語られています。 - ジン (Djinn)
【分類】精霊 【地域】イスラム教
人間や天使とは異なる、煙の立たない火から生まれたとされる精霊族。善良な者もいれば、邪悪な者もいます。ランプの魔人「ジーニー」は、このジンが元になっています。
第3章:古代文明の遺産 – エジプト・メソポタミアの幻獣
ナイルの恵みと、人類最古の文明が生まれた地。ここに伝わる幻獣たちは、死と再生、そして星々の運行と深く結びついています。
【エジプト神話】
- アメミット (Ammit)
【分類】魔獣 【地域】エジプト神話
ワニの頭、ライオンの上半身、カバの下半身を持つ、恐ろしい合成獣。「魂を喰らうもの」と呼ばれ、死者の審判において、罪人の心臓を喰らう役割を担っています。 - ベヌウ (Bennu)
【分類】神鳥 【地域】エジプト神話
太陽神ラーの魂の化身とされる、神聖な鳥。自らを炎で焼き、その灰の中から若返って再生するという伝説を持ち、ギリシャ神話のフェニックスの原型になったと言われています。 - メジェド (Medjed)
【分類】神 【地域】エジプト神話
古代エジプトの死者の書にのみ登場する、謎多き神。目と足だけが描かれた、布をかぶったようなシンプルな姿が特徴。「打ち倒す者」という意味の名を持ち、目から不可視の光線を放つとされています。
【メソポタミア神話】
- パズズ (Pazuzu)
【分類】魔神 【地域】メソポタミア神話
ライオンの頭と腕、鷲の脚と翼、サソリの尾を持つ、熱風と飢饉をもたらす恐ろしい悪霊の王。しかし、同時に他の悪霊を退ける力も持つとされ、魔除けの護符としても用いられました。 - ムシュフシュ (Mushussu)
【分類】神獣 【地域】メソポタミア神話
蛇の頭と体、ライオンの前脚、鷲の後ろ脚を持つ、古代バビロニアの神々の聖獣。かつてバビロンに存在したイシュタル門の壁面に、その姿が描かれています。
第4章:南北アメリカ大陸の神話 – 未知なる大地の幻獣
マヤ、アステカ、インカといった独自の文明と、広大な自然が育んだ幻獣たちは、時に人身御供を求める恐ろしい神として、時に文化をもたらす創造主として語り継がれています。
- ケツァルコアトル (Quetzalcoatl)
【分類】神 【地域】アステカ神話
「羽毛ある蛇」を意味する、アステカの最高神の一柱。農耕の神、文化の神として崇拝される一方で、人身御供を求める恐ろしい側面も持っていました。 - サンダーバード (Thunderbird)
【分類】神鳥 【地域】ネイティブアメリカン伝承
その羽ばたきが雷鳴を呼び、目からは稲妻を放つという、巨大な鷲の姿をした雷の精霊。恵みの雨をもたらす偉大な存在として、畏敬の念を集めていました。 - ウェンディゴ (Wendigo)
【分類】魔物 【地域】ネイティブアメリカン伝承
極寒の森に棲み、人肉を喰らうことを渇望する氷の悪霊。人肉を食べた人間が、この怪物に変貌してしまうという、恐ろしい言い伝えがあります。
第5章:世界の奇妙な隣人たち – マイナー・ユニークモンスター
世界には、まだ我々の知らない、奇妙でユニークなモンスターが数多く潜んでいます。ここでは、ファンタジーの世界をより豊かにする、個性的な存在たちを紹介します。
【ヨーロッパ】
- バジリスク (Basilisk)
【分類】魔獣 【地域】ヨーロッパ伝承
蛇の王。その視線や吐息に、触れたものを石化させたり、死に至らしめる猛毒を持つとされています。雄鶏が生んだ卵を、ヒキガエルが温めることで生まれるという、奇怪な誕生譚が有名です。 - コカトリス (Cockatrice)
【分類】魔獣 【地域】ヨーロッパ伝承
バジリスクとよく似た能力を持つ、鶏と蛇が混ざったような姿の怪物。鏡に映った自分の姿を見ると死んでしまうという、ユニークな弱点を持ちます。 - マンティコア (Manticore)
【分類】合成獣 【地域】ペルシャ起源/ヨーロッパ伝承
人間の顔、ライオンの体、サソリの尾を持つ、極めて凶暴な人食い怪物。三列に並んだ鋭い歯を持ち、尾の先からは毒針を飛ばして攻撃します。 - レプラコーン (Leprechaun)
【分類】妖精 【地域】アイルランド伝承
虹のふもとに、黄金が詰まった壺を隠しているとされる、靴職人の妖精。捕まえることができれば、黄金のありかを教えてくれると言われています。 - ドッペルゲンガー (Doppelganger)
【分類】霊 【地域】ドイツ伝承
自分とそっくりの姿をした、もう一人の自分。「自己像幻視」とも呼ばれ、これを見てしまうと、近いうちに死が訪れるという不吉な言い伝えがあります。 - インキュバス (Incubus) / サキュバス (Succubus)
【分類】夢魔 【地域】ヨーロッパ伝承
人間の夢の中に現れ、精気を吸い取るとされる悪魔。男性の姿のものがインキュバス、女性の姿のものがサキュバスと呼ばれます。 - デュラハン (Dullahan)
【分類】妖精 【地域】アイルランド伝承
自分の首を小脇に抱え、首なし馬が曳く馬車に乗って現れる、死を告げる妖精。彼が馬車を止めた家の人間は、必ず死ぬ運命にあるとされています。 - ジャック・オー・ランタン (Jack-o’-Lantern)
【分類】霊 【地域】アイルランド伝承
生前の悪行から、天国にも地獄にも行けなくなった男の魂。カブをくり抜いて作ったランタンに、悪魔からもらった火を灯し、永遠にこの世を彷徨い続けています。 - オーガ (Ogre)
【分類】巨人/亜人 【地域】ヨーロッパ伝承
人里離れた場所に住む、醜く、巨大で、人を喰らう怪物。知性は低いですが、その怪力は脅威です。 - トロール (Troll)
【分類】巨人/妖精 【地域】北欧伝承
森や洞窟に住む、毛むくじゃらの巨人。日光を浴びると石になってしまうという弱点を持ちます。 - リンドヴルム (Lindworm)
【分類】竜種 【地域】北欧伝承
翼を持たず、巨大な蛇のような体に、2本の前脚だけを持つ竜。大地を這い回り、毒の息を吐くとされています。 - エルフ (Elf)
【分類】妖精 【地域】北欧・ゲルマン神話
森に住む、非常に美しく、長命な種族。弓の名手であり、自然と調和して生きています。現代ファンタジーでは、人間と友好的な準レギュラー的存在です。 - ドワーフ (Dwarf)
【分類】妖精 【地域】北欧・ゲルマン神話
山や地下に住み、鍛冶と採掘を得意とする、背の低い頑健な種族。豪快で酒好き、そして手先が器用であるとされています。 - バーゲスト (Barghest)
【分類】魔獣/妖精 【地域】イギリス伝承
燃えるような目を持つ、巨大な黒い犬の姿をした妖精。死の前兆として現れるとされ、その姿を見た者は死ぬと言われています。 - ケット・シー (Cat-sith)
【分類】妖精 【地域】スコットランド・アイルランド伝承
胸に白い模様がある、巨大な黒猫の姿をした猫の妖精。人語を解し、二本足で歩くこともあります。 - ナーフ (Nuckelavee)
【分類】魔物 【地域】スコットランド伝承
馬の体に、皮を剥がれた人間の上半身が融合した、極めておぞましい姿の怪物。その息は作物を枯らし、疫病をまき散らす、災厄の化身です。
【アジア】
- がしゃ髑髏 (Gashadokuro)
【分類】妖怪 【地域】日本
野垂れ死にした人々の怨念が集まって生まれた、巨大な骸骨の妖怪。夜中にガチガチと歯を鳴らしながら現れ、人間を見つけると握り潰して喰らうとされています。 - 鵺 (Nue)
【分類】妖怪 【地域】日本
サルの顔、タヌキの胴体、トラの手足、ヘビの尾を持つ合成獣。不気味な声で鳴き、天皇を病に苦しめたとされています。 - 鎌鼬 (Kamaitachi)
【分類】妖怪 【地域】日本
つむじ風に乗って現れ、鋭い鎌で人を切りつけるイタチの妖怪。不思議なことに、切り口からは血が出ず、痛みもないと言われています。 - 雪女 (Yuki-onna)
【分類】妖怪 【地域】日本
雪深い夜に現れる、美しい女性の姿をした妖怪。その吐息は、人を一瞬で凍え死にさせると言われています。 - 件 (Kudan)
【分類】瑞獣/妖怪 【地域】日本
人間の顔と牛の体を持つ獣。生まれて数日で死んでしまいますが、その間に必ず、戦争や豊作などに関する重大な予言を残すと言われています。 - キョンシー (Jiangshi)
【分類】不死者 【地域】中国
死後硬直したまま、ピョンピョンと跳ねて移動する死体。人の生気に引き寄せられ、その息を止めようと襲いかかってきます。 - しょうけら (Shokera)
【分類】妖怪 【地域】日本
庚申(こうしん)の夜、人々が眠っているのを天帝に告げ口しに行くという、小さな鬼のような妖怪。
【アフリカ】
- モケーレ・ムベンベ (Mokele-mbembe)
【分類】未確認生物 【地域】アフリカ
コンゴのジャングルに棲むとされる、カバを襲うほどの巨大な水棲生物。「虹」を意味するその名は、神出鬼没な性質を表しています。 - ングマ・モネネ (Nguma-monene)
【分類】未確認生物 【地域】アフリカ
モケーレ・ムベンベと同じく、コンゴに伝わる巨大な蛇、あるいはトカゲのような怪物。
【オセアニア】
- バニヤップ (Bunyip)
【分類】魔物 【地域】オーストラリア
沼や川に潜む、恐ろしい怪物。夜中に不気味な鳴き声を上げ、水辺に近づく人間や動物を襲って食べると、アボリジニの人々に信じられています。 - ヨーウィー (Yowie)
【分類】未確認生物 【地域】オーストラリア
オーストラリアの山岳地帯に住むとされる、毛むくじゃらの獣人。ヒマラヤのイエティや、北米のビッグフットに相当する存在です。
【南米】
- チュパカブラ (Chupacabra)
【分類】未確認生物 【地域】南米
「ヤギの血を吸う者」という意味の名を持つ、吸血UMA。家畜を襲い、その血を抜き取ってしまうという噂で、人々を恐怖に陥れました。 - インブンチェ (Imbunche)
【分類】魔物 【地域】チリ
チリの魔術師によって作られる、手足がねじ曲げられ、頭が後ろ向きになった醜い怪物。魔術師の洞窟の番人として使役されます。
【その他・創作】
- クトゥルフ (Cthulhu)
【分類】邪神 【地域】クトゥルフ神話(創作)
H.P.ラヴクラフトの小説に登場する、宇宙的恐怖の象徴。タコのような頭に、コウモリのような翼を持つ巨人の姿で、海底都市ルルイエで眠りについています。 - ジャバウォック (Jabberwock)
【分類】怪物 【地域】鏡の国のアリス(創作)
ルイス・キャロルの詩に登場する、意味不明の怪物。鋭い爪と、燃えるような目を持ちます。 - バルログ (Balrog)
【分類】魔物 【地域】指輪物語(創作)
J.R.R.トールキンの小説に登場する、炎と影を纏った古代の悪魔。炎の鞭と剣を振るい、その力は魔法使いガンダルフと互角です。 - スライム (Slime)
【分類】魔物 【地域】創作
不定形のアメーバ状モンスター。ファンタジーRPGの最弱モンスターとしておなじみですが、酸で何でも溶かしてしまう、侮れない存在です。 - オルトロス (Orthrus)
【分類】魔獣 【地域】ギリシャ神話
ケルベロスの兄弟とされる、双頭の犬。英雄ヘラクレスによって退治されました。 - タラスク (Tarasque)
【分類】竜種 【地域】フランス伝承
ライオンの頭、亀の甲羅、熊の爪、サソリの尾を持つ、極めて凶暴な竜。聖女マルタによって鎮められたという伝説が残っています。 - フェニックス (Phoenix)
【分類】神鳥 【地域】ギリシャ神話/エジプト起源
エジプトのベヌウがギリシャに伝わったもの。数百年に一度、自ら炎に飛び込んで死に、その灰の中から幼鳥として蘇る、永遠の命の象徴です。 - ヒッポグリフ (Hippogriff)
【分類】幻獣 【地域】ヨーロッパ伝承
グリフォンの父と、雌馬の母から生まれたとされる幻獣。鷲の上半身と、馬の下半身を持ちます。 - セルキー (Selkie)
【分類】妖精 【地域】スコットランド伝承
アザラシの皮を脱ぐと、絶世の美女(あるいは美男)になるという妖精。皮を人間に隠されると、海に帰れなくなってしまうという、悲恋の物語が多く語られています。 - コボルト (Kobold)
【分類】妖精 【地域】ドイツ伝承
鉱山に住む、犬のような頭を持つ小人。悪戯好きですが、時には人間の仕事を手伝ってくれることもあります。 - バグベア (Bugbear)
【分類】妖精 【地域】イギリス伝承
子供を脅かす、毛むくじゃらの熊のような姿をした妖精。 - オーディン (Odin)
【分類】神 【地域】北欧神話
※幻獣ではありませんが、北欧神話の頂点として。隻眼で、スレイプニルに乗り、二羽のワタリガラスを従える、戦争と魔術と知識の神。 - ゼウス (Zeus)
【分類】神 【地域】ギリシャ神話
※幻獣ではありませんが、ギリシャ神話の頂点として。雷霆(ケラウノス)を武器に、オリュンポスの神々を束ねる全知全能の最高神。
さいごに:幻獣たちが、私たちに語りかけるもの
100の幻獣・モンスターを巡る旅は、ここで終わりです。
彼らの姿は、時に醜く、時に美しく、そして常に私たちの想像力を超えています。しかし、その物語の奥底に流れているのは、古代から現代まで変わらない、人間の「感情」そのものです。
未知なるものへの恐怖、強大な力への憧れ、抗えぬ運命への悲しみ、そして、いつか闇が光に打ち破られることへの希望。
幻獣とは、私たち人間が、自らの心を映し出すために生み出した、壮大な鏡なのかもしれません。この図鑑が、あなたの創造の世界を、そして現実世界を見る目を、少しでも豊かにするための一助となれたなら幸いです。
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