「日暮里」は「ひぐらしり」?
「亀戸」は「かめど」?
東京に住んでいても、ふと目にした地名の読み方に戸惑った経験はありませんか。この街には、一筋縄ではいかない難読地名が、まるで歴史の地層のように無数に存在しています。
なぜ東京には、これほどまでに読み方が難しい地名が多いのでしょうか。
それは、江戸時代からの名残、川や谷が作り出した独特の地形、そして人々の願いや暮らしが込められた当て字など、様々な理由が複雑に絡み合っているからです。
さあ、あなたはいくつ読めるでしょうか。まずは腕試しから始めましょう。
【初級編】まずはウォーミングアップ!有名難読地名10選
テレビのクイズ番組などでもおなじみ、まずは基本の10地名です。これがスラスラ読めたら、あなたはすでに東京の地名への第一歩を踏み出しています。
- 日暮里(にっぽり)
所在地:荒川区
由来:「一日中過ごしても飽きないほど美しい里」から「日暮らしの里」と呼ばれたことが起源とされています。 - 亀戸(かめいど)
所在地:江東区
由来:かつてこの地にあった亀が臥せているような形の島「亀ヶ島」と、そこにあった「亀井戸」という井戸が組み合わさったという説が有力です。 - 石神井(しゃくじい)
所在地:練馬区
由来:この地の豪族、豊島氏が掘り出した石剣を石神様として祀ったことから来ていると言われています。 - 等々力(とどろき)
所在地:世田谷区
由来:等々力渓谷にある不動の滝の音が「轟いた」ことから、この名がついたとされています。 - 御徒町(おかちまち)
所在地:台東区
由来:江戸時代、将軍を警護する下級武士である「御徒(おかち)」が多く住んでいたことに由来します。 - 雑司が谷(ぞうしがや)
所在地:豊島区
由来:かつてこの地を管理していた役職「雑司」に由来するという説や、木々が雑然と生い茂る谷だったからという説があります。 - 砧(きぬた)
所在地:世田谷区
由来:古代、多摩川で布を洗い、それを叩いて柔らかくする道具「砧(きぬた)」を使う人々が住んでいたことに由来します。 - 舎人(とねり)
所在地:足立区
由来:古代、皇族や貴族に仕えた役職「舎人」が住んでいた、あるいは舎人親王に由来するなど、諸説あります。 - 麹町(こうじまち)
所在地:千代田区
由来:江戸城を築く際に、幕府の麹御用を務める人々が住んでいたことからこの名がつきました。 - 神楽坂(かぐらざか)
所在地:新宿区
由来:坂の途中にあった高田八幡宮の神輿が、坂を通る際に神楽を奏でたから、という説が有名です。
【中級編】これが読めたら東京通!23区の難読地名30選
ここからは難易度が少し上がります。エリアごとにご紹介するので、あなたの知っている街が出てくるかもしれません。由来を知れば、いつもの景色が少し違って見えるはずです。
都心エリア(千代田区・中央区・港区・文京区)
- 兜町(かぶとちょう)
所在地:中央区
由来:平安時代の武将、藤原秀郷が平将門の兜をこの地の鎧稲荷に埋めた、という伝説に由来します。 - 日本橋蛎殻町(にほんばしかきがらちょう)
所在地:中央区
由来:江戸時代、このあたりで牡蠣の殻を焼いて石灰を作っていた職人が多く住んでいたことから名付けられました。 - 動坂(どうざか)
所在地:文京区
由来:坂の途中にあった道観山不動院(現在は廃寺)の「道」と、目赤不動の「不動」から一字ずつ取ったとされています。 - 麻布狸穴町(あざぶまみあなちょう)
所在地:港区
由来:「まみ」とは狸の古称。かつてこの地に狸の巣穴が多くあったことから、この名がつきました。 - 高輪(たかなわ)
所在地:港区
由来:高台にあるまっすぐな道、「高縄手道(たかなわてみち)」があったことに由来するという説が有力です。
城西・城南エリア(新宿区・渋谷区・世田谷区・品川区・大田区・目黒区)
- 松濤(しょうとう)
所在地:渋谷区
由来:明治時代、この地に茶園「松濤園」があったことから。茶の湯で釜の湯が煮える音を松林に風が吹く音「松濤」に例えたのが起源です。 - 用賀(ようが)
所在地:世田谷区
由来:ヨガの語源とも言われる、仏教の「瑜伽(ゆが)」に由来します。かつてこの地に瑜伽の道場があったとされています。 - 碑文谷(ひもんや)
所在地:目黒区
由来:この地にあった碑文石(現在は鎌倉の寺に移設)に由来します。 - 不入斗(いりやまず)
所在地:大田区
由来:かつてこの地が、税の徴収を免除された「不入斗の地」であったことに由来すると言われています。 - 馬込(まごめ)
所在地:大田区
由来:源頼朝がこの地を訪れた際、馬を連れたまま村に入ったことから「馬込」となったという伝説があります。 - 洗足(せんぞく)
所在地:目黒区
由来:日蓮聖人がこの地を訪れた際、池で足を洗ったという伝説から「千束の池(現在の洗足池)」が名付けられ、地名になりました。 - 荏原(えばら)
所在地:品川区
由来:「江」は入り江、「原」は広い土地を意味し、かつての東京湾の入り江に面した原野であったことから来ています。 - 払方(はらいかた)
所在地:新宿区
由来:江戸時代、罪人の処刑(払い)が行われた場所であったことに由来すると言われています。
城北・城東エリア(練馬区・板橋区・北区・足立区・葛飾区・江戸川区)
- 江古田(えこだ)
所在地:練馬区・中野区
由来:この地を流れていた江古田川に由来。ちなみに西武池袋線の駅名は「えこだ」、都営大江戸線の新江古田駅は「しんえごた」と読み方が異なります。 - 氷川台(ひかわだい)
所在地:練馬区
由来:近くにある氷川神社にちなんで名付けられました。 - 浮間(うきま)
所在地:北区
由来:荒川の氾濫によってできた、浮島のような土地であったことからこの名がつきました。 - 十条(じゅうじょう)
所在地:北区
由来:平安時代の条里制の名残であるという説や、紀州の十条村から移住した人々が開墾したからという説があります。 - 花畑(はなはた)
所在地:足立区
由来:「はなばたけ」と読みたくなりますが、正しくは「はなはた」。かつてこの地が花卉栽培で栄えたことに由来します。 - 小菅(こすげ)
所在地:葛飾区
由来:この地に菅(すげ)という植物が小さく生い茂っていたことから名付けられました。 - 鹿骨(ししぼね)
所在地:江戸川区
由来:この地で鹿の骨が多数発見されたことに由来するという、少し怖い伝説が残っています。 - 一之江(いちのえ)
所在地:江戸川区
由来:この地域がかつて多くの入り江(江)に分かれており、その一番目の入り江だったことから来ています。 - 谷河内(やごうち)
所在地:江戸川区
由来:谷あいの低い土地であったことから、この名がついたとされています。 - 舎人(とねり)
所在地:足立区
※初級編と重複しますが、重要な地名なので再掲。 - 葛西(かさい)
所在地:江戸川区
由来:下総国の葛飾郡の西側に位置していたことから「葛西」と呼ばれました。 - 金町(かなまち)
所在地:葛飾区
由来:この地を流れる江戸川の上流(川上)が「上之町(かみのまち)」と呼ばれ、それが訛って「かなまち」になったという説があります。 - 亀有(かめあり)
所在地:葛飾区
由来:元々は「亀無(かめなし)」でしたが、縁起が悪いということで「亀有」に改められたという説が有名です。 - 向島(むこうじま)
所在地:墨田区
由来:浅草から見て隅田川の「向こう側」にある島のような土地であったことから名付けられました。 - 業平(なりひら)
所在地:墨田区
由来:平安時代の歌人、在原業平がこの地を訪れたという伝説にちなんで名付けられました。 - 扇(おうぎ)
所在地:足立区
由来:この地域の土地の形が、扇を開いたような形をしていたことに由来します。 - 興野(おきの)
所在地:足立区
由来:かつてこの地が、葦などが生い茂る広大な野原「沖野」であったことから来ています。
【上級編】都民でも知らない?超難解地名30選
ここからは、東京に長く住んでいる人でも、思わず「何と読むの?」と声に出してしまうレベルの難読地名です。由来を知れば、きっと誰かに話したくなるはず。あなたの知識の限界に挑戦してみてください。
23区エリア
- 雲雀町(ひばりちょう)
所在地:千代田区
由来:江戸城の吹上御苑内にあった地名で、鳥のヒバリに由来します。現在は皇居東御苑の一部であり、正式な町名ではありませんが、歴史的な地名として知られています。 - 駿河台(するがだい)
所在地:千代田区
由来:江戸時代、徳川家康に仕えた駿河国の武士たちがこの地に多く住んだことに由来します。 - 茅場町(かやばちょう)
所在地:中央区
由来:江戸時代、この地が茅(かや)を刈り取るための草地であったことから名付けられました。 - 霊岸島(れいがんじま)
所在地:中央区
由来:かつてこの地にあった霊巌寺(現在は江東区に移転)に由来します。元々は隅田川河口の島でした。 - 廿騎町(にじっきちょう)
所在地:新宿区
由来:江戸時代、徳川家康に仕えた内藤清成の配下であった20騎の武士(廿は二十の意)に、この土地が与えられたことに由来します。 - 簞笥町(たんすまち)
所在地:新宿区
由来:江戸幕府の武器(箪笥)を管理する職人たちが住んでいたことに由来します。 - 騰写(とうしゃ)
所在地:新宿区
由来:印刷技術である「騰写版」を発明した堀井新治郎の親子が、この地に工場を構えたことに由来する珍しい地名です。 - 廻沢(めぐりさわ)
所在地:世田谷区
由来:この地を流れる沢が、大きく回り込むように流れていたことから名付けられました。 - 悍馬(かんま)
所在地:世田谷区
由来:かつてこの地に、気性の荒い馬(悍馬)を調教する場所があったことに由来すると言われています。 - 秣(まぐさ)
所在地:世田谷区
由来:馬の飼料となる草「秣(まぐさ)」を育てるための土地であったことに由来します。 - 泛(うき)
所在地:品川区
由来:この地がかつて湿地帯で、水に浮かんでいるように見えたことから名付けられたと言われています。 - 糀谷(こうじや)
所在地:大田区
由来:かつてこの地で、米から麹(こうじ)を作る職人が多く住んでいたことに由来します。 - 卅(さんじゅう)
所在地:大田区
由来:条里制の名残で、三十番目の土地であったことを示す「卅」が地名として残ったとされています。 - 笄町(こうがいちょう)
所在地:港区
由来:源頼朝がこの地を訪れた際、妻の北条政子の笄(こうがい、髪をまとめる道具)を川で洗い、それが流されてしまったという伝説に由来します。現在は西麻布の一部です。 - 巣鴨(すがも)
所在地:豊島区
由来:かつてこの地にあった伊勢神宮の御厨(みくりや、神饌を調達する場所)の鴨を捕るための巣があったことに由来するという説があります。 - 巣鴨庚申塚(すがもこうしんづか)
所在地:豊島区
由来:「庚申(こうしん)」とは、干支に基づいた信仰で、この地に庚申様を祀る塚があったことから名付けられました。 - 雑色(ぞうしき)
所在地:大田区
由来:宮中や役所で雑役を務めた役職「雑色」の人々が住んでいたことに由来します。 - 椚田(くぬぎだ)
所在地:八王子市
由来:この地にクヌギの木が多く生えていたことから名付けられました。 - 恩方(おんがた)
所在地:八王子市
由来:この地が、寺社などに寄進された「御恩の地」であったことに由来すると言われています。 - 柚木(ゆぎ)
所在地:青梅市
由来:この地にユズの木が多く自生していたことから名付けられました。 - 留原(ととはら)
所在地:あきる野市
由来:この地を流れる秋川の音が「とどろく」ことから「轟々原(とどはら)」と呼ばれ、それが転じたという説があります。 - 檜原(ひのはら)
所在地:西多摩郡檜原村
由来:ヒノキの木が多く生える原野であったことから、この名がつきました。 - 神戸(かのと)
所在地:西多摩郡檜原村
由来:この地が、神社に奉仕する人々が住む集落「神戸(かんべ)」であったことに由来します。 - 人里(へんぼり)
所在地:西多摩郡檜原村
由来:地形が辺鄙(へんぴ)であったことから来ているという説や、平家の落人が住み着いた「平群(へぐり)」が転じたという説があります。 - 小棡(こゆずり)
所在地:西多摩郡檜原村
由来:この地にユズリハの木が多く生えていたことに由来します。 - 笛吹(うすき)
所在地:西多摩郡檜原村
由来:この地を流れる川の音が、笛を吹く音のように聞こえたことから名付けられたと言われています。 - 狼配(おいのはい)
所在地:西多摩郡檜原村
由来:「おいの」は狼の古称。狼が多く出没した土地であったことに由来します。 - 数馬(かずま)
所在地:西多摩郡檜原村
由来:南北朝時代、南朝方の武将が、ここで軍馬の数を数えたという伝説に由来します。 - 払沢(ほっさわ)
所在地:西多摩郡檜原村
由来:滝の音が、仏具の「払子(ほっす)」を振る音に似ていたことから名付けられた「払沢の滝」に由来します。 - 粟生(あお)
所在地:西多摩郡日の出町
由来:この地で粟(あわ)が多く栽培されていたことに由来します。
【番外編】もはや暗号?バス停・交差点の難読地名
正式な町名ではないものの、日々の生活に溶け込んでいるバス停や交差点にも、難読地名は潜んでいます。これらが読めたら、真の東京地名マスターと言えるでしょう。
- 薬研坂(やげんざか)
所在地:港区
由来:坂の中央がくぼみ、両側が高くなっている形が、漢方薬を作る道具「薬研」に似ていることから。 - 鐙坂(あぶみざか)
所在地:文京区
由来:急な坂道で、馬の鐙(あぶみ)が地面に擦れたからという説や、鐙が坂から出土したからという説があります。 - 鰻坂(うなぎざか)
所在地:港区
由来:坂道がうなぎのように曲がりくねっていることから名付けられました。 - 喰違見附(くいちがいみつけ)
所在地:千代田区
由来:江戸城の外堀の土塁を、敵の侵入を防ぐために食い違いに築いた「喰違土手」があったことに由来します。 - 庚申坂(こうしんざか)
所在地:都内各所
由来:坂の途中に庚申様を祀る塚や塔があることに由来します。
さいごに
東京の難読地名を巡る旅、いかがでしたでしょうか。
一つ一つの地名には、私たちが生まれるずっと前から続く、その土地の記憶が刻まれています。地形、人々の暮らし、伝説、そして願い。地名の由来を知ることは、まるでタイムマシンのように、私たちをその土地の過去へと誘ってくれます。
今回ご紹介したのは、数ある難読地名の中のほんの一部です。あなたの身の回りにも、まだ知られていない不思議な地名が眠っているかもしれません。
次にあなたが東京の街を歩くとき、ふと目にした地名や坂の名前に、少しだけ足を止めてみてください。その名前の奥には、きっと面白い物語が隠されているはずです。その小さな発見が、あなたの「東京」を、もっと深く、もっと豊かなものにしてくれることでしょう。
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