【衝撃の真実】非常口の「あの人」には名前があった!緑色の理由と、世界を救った日本のデザイン秘話

デパートで、駅で、学校で、あるいは飛行機の中で。
私たちは、人生で一体何度、あのマークを目にしてきただろうか。

緑色の背景に、白いシルエットで描かれた、ドアに向かって必死に走る、一人の人物
そう、「非常口」のマークである。

それは、あまりにも日常に溶け込みすぎて、我々がその存在を意識することはほとんどない。
しかし、ひとたび火災や地震が起これば、その緑色の光は、暗闇の中で唯一の希望の道標となる、まさに**「命のサイン」**だ。

だが、あなたは、この世界で最も重要なサインの一つについて、どれだけのことを知っているだろうか?

  • なぜ、背景は「赤」や「黄色」といった警告色ではなく、「緑色」なのか?
  • あの走っている人(ピクトグラム)は、誰が、どんな想いでデザインしたのか?
  • そして、巷で囁かれる「あの人には“ピクトさん”という名前がある」という噂は、本当なのだろうか?

この記事は、そんな「非常口マーク」に隠された、驚くべき誕生の秘密と、そのデザインに込められた深い意味を、日本のデザイン史と国際規格の視点から、日本一詳しく、そして面白く解き明かす、決定版の解説書である。

【この記事一本で、あなたは「非常口マーク」の専門家になる】

  • 第1章:【デザインの誕生秘話】日本人が作った!世界が絶賛した「命のピクトグラム」の奇跡
  • 第2章:【“緑色”の科学的理由】「赤=止まれ」は世界共通じゃなかった?安全を伝える、究極の色彩心理学
  • 第3章:【核心の謎】非常口の“あの人”に名前はあったのか?「ピクトさん」伝説の真実
  • 第4章:【2種類のマーク】「緑の人が走るマーク」と「緑の背景に白抜きのマーク」、その決定的な違いとは?
  • 第5章:【世界の非常口】日本のデザインは世界標準?海外のユニークな避難サインたち

この記事を読み終える頃には、あなたが日常で目にする「非常口マーク」は、もはや単なる標識には見えなくなるだろう。
それは、一枚の絵で、国籍や文化、言語を超えて、**「こちらへ逃げろ!」**という最も重要なメッセージを伝えるために、日本のデザイナーたちが知恵を絞った、誇るべき発明品として、輝いて見えることを約束する。

さあ、世界で最も有名な「無名の人」の物語を始めよう。


第1章:【デザインの誕生秘話】日本人が作った!世界が絶賛した「命のピクトグラム」

驚くべきことに、我々が今、世界中で当たり前のように目にしているあの「緑の人が走るマーク」は、日本人デザイナーによって、日本で生み出されたものである。

事件の始まり:デパート火災の悲劇

1970年代初頭の日本。高度経済成長の只中で、都市部には次々と巨大なデパートや雑居ビルが建設された。しかし、その安全対策は、まだ発展途上であった。
1972年の大阪・千日デパート火災、1973年の熊本・大洋デパート火災と、大規模な火災が相次ぎ、多くの人々が逃げ遅れて犠牲となった。

当時の非常口の表示は、「非常口」と日本語の文字で書かれた、赤い照明が主流だった。
しかし、火災による煙が充満した状況では、文字は非常に見えにくく、読めない。
また、外国人観光客には、その意味が全く伝わらない。

「言葉が分からなくても、子供でも、パニック状態でも、一瞬で『あちらが逃げ道だ』と理解できる、普遍的なサインが必要だ」
この悲劇を教訓に、国を挙げての新しい非常口サインのデザイン開発が始まったのである。

運命のコンペティション

1978年、消防庁(当時)は、新しい非常口サインのデザインを公募するコンペティションを開催した。
全国から3,300点以上もの応募が集まる中、最終選考に残ったのは、数名のデザイナーたちの案だった。

そして、最終的に最優秀作として選ばれたのが、グラフィックデザイナーの太田幸夫氏らが中心となって作成した、あの**「緑の背景に、白い人物がドアに向かって走る」**デザインだったのである。

なぜ、このデザインは画期的だったのか?

太田氏のデザインは、それまでの常識を覆す、いくつかの革命的な要素を持っていた。

  • 「文字」から「絵(ピクトグラム)」へ: 言語の壁を完全に取り払った。
  • 静的な「状態」から、動的な「行動」へ: 単に「ここが出口です」と示すだけでなく、「今すぐ、そちらへ走れ!」という、緊急時の“行動”そのものを、力強く描いた。
  • 色の転換: 危険を知らせる「赤」ではなく、安全を象徴する「緑」を採用した。(この理由は次章で詳しく解説する)

このデザインは、1982年に日本の国内規格(JIS)に制定された。そして、その圧倒的な分かりやすさと機能性が世界的に評価され、1987年、国際標準化機構(ISO)によって、世界標準の非常口サインとして正式に採用されるに至ったのである。

日本のデパート火災の悲劇から生まれた一つのデザインが、今や、世界中の人々の命を守る「世界共通言語」となっている。これは、日本のデザイン史における、最も誇るべき成果の一つと言えるだろう。


第2章:【“緑色”の科学的理由】なぜ「赤」ではダメだったのか?

「非常口」なのだから、火や危険を連想させる「赤」の方が、注意を引くのではないか?
なぜ、あえて安全や平穏をイメージさせる「緑」が採用されたのか?
その背景には、緻密な色彩心理学と、科学的な実験に基づいた、明確な理由が存在する。

理由①:「赤=止まれ」という、強力な認知バイアス

信号機の色を思い出してほしい。
「赤=止まれ、危険」「青(緑)=進め、安全」
この色の対比は、現代社会において、我々の脳に最も深く刷り込まれた、強力な行動規範(ア-フォーダンス)である。

もし、非常口のサインが「赤色」だった場合、火災などのパニック状態に陥った人々は、無意識のうちに「そこへ行ってはいけない」「止まれ」という信号として受け取ってしまい、避難行動に**一瞬の「ためらい」や「混乱」**を生じさせる危険性があることが、心理実験で指摘された。

一刻を争う緊急事態において、このコンマ数秒のためらいは、生死を分ける可能性がある。
そこで、「あちらは安全な場所です」「ためらわずに、進んでください」というメッセージを、直感的に伝えることができる**「緑色」**が、安全な避難口を示すサインとして、最もふさわしいと判断されたのである。

理由②:煙の中での「視認性」の高さ

火災時に最も恐ろしいのは、視界を奪う「煙」である。
人間の目は、光の波長によって感じ方が異なる。煙のような粒子が充満した状況では、波長の短い光(青など)は散乱しやすく、波長の長い光(赤や緑)の方が、遠くまで届きやすい性質がある。

赤と緑を比較した場合、人間の目が最も感度が高い(暗い場所でも認識しやすい)のは、緑色の光の波長域(555ナノメートル付近)であることが、科学的に知られている。

つまり、緑色は、煙が充満した悪条件下でも、人間の目が最も認識しやすい色であり、避難経路を示すサインとして、物理的にも極めて合理的だったのである。


第3章:【核心の謎】非常口の“あの人”に名前はあったのか?「ピクトさん」伝説の真実

インターネット上で、まことしやかに囁かれる一つの噂がある。
「非常口マークに描かれている、あの走っている人には**『ピクトさん』**という名前がある」

この愛らしい名前は、一体どこから来たのだろうか?

結論:公式な名前ではないが、愛称として定着

まず、結論から言うと、「ピクトさん」は、デザイナーの太田幸夫氏や、JIS、ISOといった公的な機関が定めた、公式な名称ではない。

この名前を広めたのは、日本ピクトさん学会を主宰する、内海慶一氏である。
彼は、街中の様々なピクトグラム(案内用図記号)の中でも、特に工事現場や標識などで、落下したり、挟まれたりと、危険な目に遭っている人型のピクトグラムを愛情を込めて「ピクトさん」と名付け、その観察・分類活動を行ってきた。

その活動の中で、非常口のマークのように、緊急事態で活躍する人型のピクトグラムもまた、「ピクトさん」の仲間として紹介されるようになり、そのキャッチーな響きから、愛称として広く世間に定着していったのだ。

つまり、「ピクトさん」は、公式な名前ではないが、日本のサブカルチャーの中で育まれた、愛情のこもったニックネームなのである。


第4章:【2種類のマーク】緑の人と、白の人。その決定的な違いとは?

さて、ここであなたの観察眼を試してみたい。
非常口マークには、実は2つの種類があることにお気づきだろうか?

  1. 【緑地に白抜きのマーク】
    • 意味: 「ここが、非常口です」
    • 設置場所: 避難できるドアそのものの上に設置される。
  2. 【白地に緑色のマーク】
    • 意味: 「非常口は、この先にあります」
    • 設置場所: 非常口までの通路や廊下に設置され、避難の方向を示す矢印などと共に用いられる。

この2つは、消防法によって明確に使い分けが定められている。
**「背景が緑色=ゴール地点」「背景が白色=そこへ向かう通路」**と覚えておけば、万が一の際、よりスムーズに避難することができるだろう。


さいごに:デザインは、言葉を超える「命の言語」である

たった一枚の、シンプルな緑色の標識。
しかし、その裏側には、過去の悲劇への反省、科学的な計算、そして、言語や文化の壁を越えて、一人でも多くの命を救いたいという、デザイナーの強い願いが込められていた。

「ピクトさん」は、今日も、世界中のあらゆる場所で、24時間365日、休むことなく、私たちを安全な場所へと導くために、走り続けている。
その姿は、無言でありながら、最も力強く、そして最も雄弁だ。

次にあなたが、ふと非常口のマークを目にしたなら、少しだけ、その誕生の物語に思いを馳せてみてほしい。
優れたデザインとは、単に美しいだけではない。
時には、どんな言葉よりも雄弁に、人の命すら救うことができる、究極のコミュニケーションなのだということを、あの小さな緑の人は、私たちに静かに教えてくれている。

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