結論から言えば、複雑な制約条件下で利益を最大化する最適解を導き出す唯一無二の手段は、Excelの「ソルバー(Solver)」機能を活用し、線形計画法(リニア・プログラミング)を用いた数理モデルを構築することである。これにより、人間の勘や経験では不可能な「数千、数万通りの組み合わせ」から、理論上の最高値を一瞬で算出できる。2026年現在、AIによる予測が一般化しているが、確定的な制約(予算・在庫・工数)の中で「最善の一手」を論理的に決定する数理最適化の価値は、むしろ高まっている。
なぜ今、ソルバーによる最適化が必要なのか
現代のビジネス現場において、限られたリソース(予算、人員、原材料、時間、物流キャパシティ)をどのように配分して最大の結果を得るかという「資源配分の最適化」は、企業の競争力を左右する極めて重要な課題である。しかし、多くの現場では依然として、担当者の「経験則」や「過去の踏襲」に基づく非効率な意思決定が行われているのが実情だ。
読者が抱える具体的な悩み
- 「複数の製品を製造したいが、原材料、労働時間、機械稼働率の制約が複雑に絡み合い、どの製品を何個作るのが利益最大化に繋がるのか計算できない」
- 「予算内で広告効果を最大化したいが、媒体ごとのクリック単価、CVR、最低出稿枠、予算配分比率の制約がバラバラで、手作業のシミュレーションが追いつかない」
- 「Excelのゴールシークを使っているが、変数が1つしか扱えず、複数の条件(多変数)が絡む実務上の最適解にたどり着けない」
こうした悩みは、変数が3つ、4つと増えるだけで、人間の脳が処理できる組み合わせ爆発の限界を超えてしまうことに起因する。ここで登場するのが、数学的なアルゴリズムを用いて「目的関数の最大化・最小化」を自動計算するソルバーである。これは、2026年の高度なデータサイエンスにおいても、意思決定のラストワンマイルを担う基盤技術である。
ソルバーを活用して利益を最大化するステップバイステップ手順
ここでは、製造業における生産計画(製品A・Bの最適な生産バランス)を事例に、ソルバーを使って最適解を導き出す手順を詳説する。
1. ソルバー・アドインを有効化する
ソルバーはExcelの標準機能として内蔵されているが、初期状態ではオフになっている。まずは以下の手順で有効化する。
- 「ファイル」タブ > 「オプション」を選択。
- 左メニューの「アドイン」をクリックし、下部の管理ボックスで「Excelアドイン」を選択して「設定」をクリック。
- 「ソルバー アドイン」にチェックを入れ、「OK」を押す。これで「データ」タブの右端(分析グループ)にソルバーが表示される。
2. 数理モデルをスプレッドシート上に構築する
ソルバーを正しく動作させるためには、シート上に以下の3つの要素を論理的に配置する必要がある。
- 目的セル: 最大化したい指標(例:総利益)。数式
=SUMPRODUCT(各製品の単価, 各製品の生産量)などを用いて、必ず他のセルと連動させておく。 - 変数セル: 最適化のために値を変化させるセル(例:各製品の生産数量)。ソルバーはこのセルに代入する数値を自動で試行錯誤する。
- 制約条件: 遵守すべき物理的・経済的制限(例:総労働時間は500時間以内、在庫は200kg以内)。「現在の使用量(SUMPRODUCT等で計算)」と「上限値(定数)」を比較できる形式で配置する。
3. ソルバーのパラメータを設定する
「データ」タブから「ソルバー」を起動し、ダイアログボックスで以下の設定を行う。
- 「目的セルの設定」に、総利益の計算セルを指定。目標値は「最大値」を選択する。
- 「変数セルの変更」に、生産数量を入力する予定のセル範囲を指定する。
- 「制約事項の追加」をクリックし、条件を入力する(例:
$B$10 <= $C$10)。また、物理的な数量はマイナスにならないため、「制約のない変数を非負数にする」に必ずチェックを入れる。 - 解決方法の選択:線形モデル(比例関係)であれば、最も高速で正確な「シンプレックス LP」を選択する。
4. 解決の実行と感度分析
「解決」ボタンをクリックすると、アルゴリズムが実行される。最適解が見つかると変数セルに数値が自動入力される。ここで重要なのが、解決後のダイアログで「感度レポート」を選択することだ。これにより、「原材料の在庫があと1kg増えたら、総利益はいくら増えるか(シャドウ・プライス)」という、将来の投資判断に不可欠なデータを得ることができる。
ソルバーの核心:線形計画法(LP)によるリソース配分の科学
ソルバーの最大の武器は「線形計画法(Simplex Method)」である。これは、複数の一次不等式で囲まれた多角形(実行可能領域)の頂点の中に必ず最適解が存在するという数学的定理に基づいている。
実践例:製造業におけるトレードオフの解消
具体例として、以下の条件で利益を最大化するケースを考える。
- 製品A: 利益 5,000円/個、加工時間 2時間、材料 3kg
- 製品B: 利益 8,000円/個、加工時間 5時間、材料 2kg
- 制約: 総加工時間 100時間/月、材料総量 60kg/月
単純に「単価の高い製品B」だけを作ると、加工時間がボトルネックとなりBを20個(利益16万円)しか作れず、材料が20kg余る。一方、ソルバーで計算すると「製品Aを10個、製品Bを15個」という配分が導き出される。このとき、時間は100時間を使い切り、材料も60kgを使い切ることで、最大利益17万円を達成できる。人間が直感で見落とす「資源の使い切り」を数学が補完するのである。
アルゴリズムの選択:モデルの性質に応じた3つのエンジン
Excelソルバーには、問題の複雑さに応じて使い分けるべき3つの計算エンジンが搭載されている。
- シンプレックス LP: 線形モデル(変数に2乗やIF関数が含まれない)に最適。計算が高速で、必ず「全体最適解(グローバル・オプティマ)」を導き出す。
- GRG 非線形: 利益率が数量に応じて変化する、あるいは曲線的な変化を含むモデルに使用する。滑らかな数式に適しているが、後述する「局所最適解」に陥るリスクがある。
- エボリューショナリー:
IF、VLOOKUP、ABSなどの不連続な関数が含まれる非常に複雑なモデルに使用する。遺伝的アルゴリズム(GA)を用いて探索するため時間はかかるが、論理構造が複雑なシフト作成や物流ルート選定などに威力を発揮する。
「局所最適解」の罠と回避策
非線形モデルを扱う際、ソルバーは最も近い「山の頂上」を見つけると計算を終了してしまうことがある。これが「局所最適解」である。これを回避するためには、GRG非線形のオプションにある「マルチスタート」機能を有効にすることを推奨する。これにより、複数の開始点から探索が行われ、真の最大値(全体最適解)に到達する確率が劇的に向上する。
意思決定の質を劇的に変える「感度レポート」の読み解き
プロフェッショナルな校閲者として強調したいのは、ソルバーの結果だけでなく「レポート」の活用である。特に「シャドウ・プライス(影の価格)」は、2026年の経営判断において極めて重要だ。
例えば、ある設備の稼働時間のシャドウ・プライスが「3,000円」と表示された場合、これは「設備の稼働制限をあと1時間緩和できれば、利益が3,000円上積みされる」ことを意味する。もし追加の残業代が3,000円未満であれば、残業をしてでも設備を動かすべきだという定量的な根拠になる。逆にシャドウ・プライスが0であれば、そのリソースには余剰があり、追加確保は無意味であることを示す。
ソルバー導入による定量的メリットと今後の拡張性
ある中堅製造業の事例では、ソルバー導入により年間利益率が15%向上し、生産計画の策定工数が従来の10分の1(90%削減)に短縮された。これは、人間が数日かけて試行錯誤していた計算を、Excelが数秒で完了させるためである。
なお、Excel標準のソルバーは、開発元である米国Frontline Systems社より提供されており、「変数200個、制約100個」までの制限がある。もし、より大規模な数万件規模の変数を扱うサプライチェーン最適化やポートフォリオ管理が必要な場合は、同社の上位アドイン(Analytic Solver)や、Pythonの最適化ライブラリ(PuLP, Pyomo, Google OR-Tools)への移行を検討する段階といえる。しかし、実務の8割以上の問題は、このExcelソルバーで解決可能である。
まとめと読者が次に取るべきアクション
「ソルバー」は単なる計算機能ではない。「データに基づいた論理的な意思決定」を組織に定着させるための強力な武器である。まずは以下の3点から着手してほしい。
- リソースの可視化: 現在の業務を縛っている「制約(予算、時間、人員)」をすべて書き出す。
- スモールモデルの構築: 変数が2〜3個の簡単な生産・配分モデルからソルバーを実行し、結果の正確性を体感する。
- 感度分析の習慣化: 最適解を得た後、制約条件の数値を10%増減させ、利益にどの程度のインパクト(感度)があるかを観察する。
2026年のビジネス環境において、不確実性を排除し、数学的根拠を持って「これがベストである」と言い切れる強みを、ぜひ手元のExcelで手に入れていただきたい。
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